「13階の女」
c/w「めかくしランナー」
1975.5.1リリース/Bourbon BMA-2
「終わりなき日々」
c/w「新宿警察のテーマ」
1975.8or9リリース/Bourbon BMA-4
memo
● 安全バンド「新宿警察」事件簿 ●
A-side「終りなき日々」
B-side「新宿警察のテーマ」
● 検証●
TV番組「新宿警察」で、安全バンドの演奏はオン・エアされたのか?
安全バンドは、「新宿警察」エンディング・テーマよりとクレジットのある「終りなき日々」と、「新宿警察のテーマ」の2曲をカップリングした上掲のシングル盤を75年9月にリリースしている(いずれもオリジナル・アルバムには未収録)。
これは、毎週土曜日夜10時からのフジテレビ系TV番組「新宿警察」(北大路欣也主演、1975/9/6〜1976/2/28放映)のテーマ曲として正式に制作されたものだが、しかし事情はよくわからないものの、当初の予定が変更され、なぜか放送では実際には使用されないことになった。
当時その話を安全バンドのマネージャーから聞いて、な〜んだ、と拍子抜けしたことを覚えている。安全バンド・サイドで番組を逐一チェックしていた人間がいたわけではないが、したがって、上掲のシングル盤の音源は「オン・エアされなかった」というのが、安全バンド関係者の認識だった。
ところが、このHPを開設したところ、「新宿警察」を観ていた方から、「番組のエンディングで流れた印象的なテーマ曲」ついて問合せがあり、念のため、ここにもupした長沢ヒロのヴォーカル入りのA面(「終りなき日々」)を聴いてもらったところ、記憶とややズレる部分があるものの、歌詞も含め、番組で使われていたのはこのヴァージョンだったと思う、ということだった。エンディング・ロールで「安全バンド」のクレジットも流れたという。
そこで、「じゃ、使わないという話だったけど、その後結局オン・エアされていたのか」という結論に一時は達したのだが、今度は別の方から「エンディングの曲は確かにこの曲だが、自分が覚えているのはインストだった」というメールをいただいた。安全バンドはこの曲(「終りなき日々」)のインストは録音していないので、いったい実際にオン・エアされたのは何だったのか、再び事態は霧の中へと戻ってしまった。
・・・それで、二人の方のお話を総合し、安全バンドのマネージャー氏にも改めて質しつつ、事実経過を推測・整理してみたのでご報告しておきたい。
恐らく、「新宿警察」のエンディング・テーマである「終りなき日々」には、3種類のヴァージョンがあったのだろう
(1)TV番組「新宿警察」のテーマ曲を、長沢博行の作詞、クニ河内氏の作・編曲、安全バンドによる演奏で制作することが決まり、クニ河内氏はバンド用にアレンジしたスコアを書いた。それに従って安全バンドは、オープニング用のアップ・テンポのファンキーなインスト「新宿警察のテーマ」とエンディング用の感傷的な歌入りナンバー「終りなき日々」(ヴォーカルは長沢)の2曲をレコーディングした。
(2)しかしクニ河内氏(もしくはTV局側の関係者)は、少なくとも後者の「終りなき日々」の出来に納得が行かず、その安全バンド・ヴァージョンの使用を差し止め、放映開始に間に合わせるために、とりあえずハモンド・オルガンが印象的なクニ河内氏のインスト・デモ・ヴァージョンをオン・エアさせた。
(3)その後クニ河内氏は、ヴォーカル入りの正式ヴァージョンを自ら新たに完成させ、それをオン・エアさせた(クニ河内氏自身の可能性が高いものの、こちらのヴァージョンのヴォーカルが誰だったのかは不明)。バッキングには、恐らくデモ・ヴァージョン同様、ハモンド・オルガンがフィーチャーされていたと思われる。
(4)インスト・ナンバー「新宿警察のテーマ」だけは、オープニングで(または番組途中で適宜)安全バンド・ヴァージョンがオン・エアされた可能性がある。
(5)エンディング・ロールでは、演奏者としての安全バンドのクレジットが、期間は不明だが、何らかの形で流れた。また「終わりなき日々」の作詞は長沢ヒロ(博行)なので、彼の名前がクレジットされた可能性は高い。
(6)TV番組「新宿警察」のテーマ曲としてのシングル盤自体は、安全バンドの演奏を収録したものが、予定通りプレスされ発売された。
「終りなき日々」の安全バンド・ヴァージョンが一度もオンエアされなかったという証拠もないが、その可能性は極めて低いだろう。
同曲について、情報をいただいたお二人とも「ハモンド(系)の音」を印象に残ったポイントとして挙げているのだが、その要素は安全バンド・ヴァージョンにはない。たぶんクニ河内氏にはハモンド・サウンドへのこだわりがあり、それは全体にもっと重々しく、よりダウナーなイメージを求めてのことで、それゆえ安全バンド・ヴァージョンに満足できなかったのではないか。
とはいっても、安全バンドの立場から言えば、いきなりスタジオで譜面を渡されて「はい、これやってください」と指示に従っただけのレコーディングであり、メンバーにしてみればそんなことは初体験、何がなんだかわからないまま?終ったセッションだったようだが。
実際、長沢ヒロのヴォーカルにはそれなりの味があると思うものの、全体として演奏はぎこちなく、彼らの力を十全に出したものとはいえない。それは当時シングル盤を聴いた時点でわかっていたことなので、リイシューのCDにボーナス・トラックとして収録されたり、こうして取り沙汰されること自体、私には(恐らく安バンにも)実は少し痛いものがあったりする(笑)。
とはいえ、安全バンド解散後、ソロ・アーチストとして、プロデュースやアレンジなどの仕事で大いに活躍することになる長沢ヒロと中村哲にとっては、その大先輩であり大御所であるクニ河内氏とのこのコラボレーションは、何にせよ貴重な体験となったことだろう。もちろん、この時点では、自らのそうした未来など、二人とも薄々とすら感じることはなかったろうけれど。
※この「事件簿」の作成は、そーれーさんと、hyde678さんからの貴重な情報提供によって可能になりました。ありがとうございました。