安全バンド

『 13階の女』

『 もうたくさんだ』

サマー・ロック・フェスティヴァル@
後楽園球場
 1975.7.19


13階の女
作詞・作曲:長沢博行

もうたくさんだ
作詞・作曲:相沢民男

personel
長沢博行(vo,b)
相沢民男(vo,g)
相沢友邦(ch,g)
中村哲(key,sax)
伊藤純一郎(vo,ds)

memo1

実話に着想を得て作られたという「13階の女」には、エンディングにデキシー風お遊びが入るアルバム・ヴァージョンと、佐藤允彦アレンジによるストリングスが入るシングル・ヴァージョンの2種類がある。いずれにせよこの曲が、安全バンドでは最も知名度のある曲なのはまちがいない。

まだ3人編成だった73年に作られた曲だが、基本的にパワー・ハード・ロック・トリオであるにも関わらず、彼らは3声の美しいコーラス・ワークもみごとにこなした。こんなバンドは少なくとも当時の「日本のロック」には他に見当たらない。

相沢友邦の正式参加後であるこの75年のライヴでは、彼を加えて4声の厚いハーモニーを聴かせている。

memo2

相沢兄弟のツイン・ギターが炸裂する「もうたくさんだ」は、兄の相沢民男の曲で、やはりトリオ時代からステージではよく演奏されていた曲。「夜(The Night)」のように、ステージでくり返すうちに長尺になっていったケースもある一方、この曲のように当初よりずいぶんとテンポが早められ、タイトとなるものもあった。

いずれにせよ、往々にしてこの頃までの安全バンドには、つまり相沢民男在籍時の安全バンドということになるが、サディスティックというべきかマゾヒスティックというべきか、よくわからないが、今にして「何もそこまで」と言いたくなるくらい、自分たちのバンドとしての演奏力のギリギリの限界へと、アレンジの難度をどこまでも高め続けていくような志向があったように思う。

それはパフォーマンスに並外れた緊張感をもたらす一方、時として安定感に欠け破綻をはらんだ結果をもたらすリスクも伴った。極めて鋭角的な迫力とともにやや混乱もかいまみえるここでの「もうたくさんだ」は、そうしたバンドの両面を伝えているとも言えるかもしれない。

ともあれ、この時期日本語でここまでのハード・ロックをやっていたグループは、ほかにはマキ&OZぐらいではないだろうか。

なお演奏開始後、何らかの機材トラブルがあったらしく、最初のコーラスがバッキングのみになっているので、UPした音源はその部分を省きつつフェイドインの形にしたほか、演奏ミスをエディットした部分がある。

memo3

サマー・ロック・フェスティヴァルは、Yuya Presentsの企画で、文化放送の協賛を得て当日の模様が後日オン・エアされている。放送された安全バンドの曲は、ここにUPした2曲に、「外へ出よう」を加えた3曲だった。

当日の出演順は、安全バンドがたぶんtopで、次がクリエイション、1815Rock&Roll Band、外道、ミカ・バンド、カルメン・マキ&OZ、そしてジョー&F・パッパラルディ(withクリエイション)という進行だったと思われる。

当日は、「13階の女」と「けだるい」の曲紹介のMCの所で、客席から大きく拍手がわいたのを覚えている(「13階の女」では、間奏のサックス開始の所でも改めて拍手がわいた)。上記の他のグループ目当てのファンも多い中、数多くのライヴをこなしてきた彼らが、その楽曲自体の魅力を「日本のロック」のファンに認知させていることを感じた一瞬だった。

memo4

ところで、その「けだるい」がオン・エアされなかったのは非常に不自然な話といえるだろう。これはたぶん演奏の出来云々の前に、3番で出てくる「俺は精神異常者/気をつけたほうがいい」という歌詞のせいだったのではと思う。

というのも、このころ様々な「差別」の問題が、ある種のパラノイアも伴いつつ声高に語られ始めた状況があり、特に放送メディアは、その問題に無定見にやたらと神経質になり始めていたからである。

「差別語狩り」という極めて退廃的な風潮が定着したのもそのころだったが、実際安全バンドも、そうした状況下、レコード会社からデビュー・アルバム『アルバムA』を出すにあたり曲名変更を余儀なくされている。A面3曲目の「めかくしランナー」は、本来は「気狂いランナー」だったのである。

当時その問題について語らっている時に、「部落差別問題が先鋭化している関西では、ブラック・サバスがオン・エアしにくい」というウソみたいな話を田川律氏に聞いた覚えがある。なぜって?「ブラクサベツ」と聞こえてまずいから・・・これがほんとの「パラノイド」?。

memo5

「13階の女」は、Rollyが「すかんち」時代の自主制作盤でカヴァーし、また大槻ケンヂ率いる「特撮」の1stアルバムにもカヴァーが収録されている。両者のライヴでは定番の人気曲で、またこの二人がライヴで同曲を共演したこともあったようだ。

「すかんち」の同アルバムには「バニラシティ」という曲も入っており、これも長沢ヒロが安全バンド解散後に結成したHEROの曲だ。

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※放送メディアにおける「差別表現」の問題については、森達也氏の「放送禁止歌」という本が興味深い。文庫化されているので、未読の方はぜひどうぞ。

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撮影:柿本桂一氏